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その要因は「国内においてサッカーやJリーグの価値を伝播し切れていない」からであり、これこそが野々村チェアマンがアジア戦略は簡単でないと考えるもうひとつの理由でもある。
「僕たちは、サッカーには国籍や地域を越えて色々な人をつなげる強い力があるとわかっています。サッカーを通じてリーチできる先はものすごく広くて、ものによってはかなり遠くまで届けられるんです。赤城乳業さんの事例は、彼らにその価値を感じていただけたからこそ実現したわけです。ただ、他の多くの日本企業や政府の方々にも同じ感覚を抱いてもらえているわけではないですし、Jリーグや各クラブが自身の価値を伝えられているかと言うと決して十分ではありません」
リーグやクラブが競技やJリーグの価値を社会に伝え切れていないのは、スポーツの価値の定量化の難しさが影響している。
そこで必要となるのは、「実績を積み重ねて周囲の理解を得ていき、海外へのアプローチと同時並行で国内における下地づくりをしていくこと」だと野々村チェアマンは言う。
それに加えて、「作品」としてのサッカーを理解してもらうことが肝心だとも語る。
「Jリーグの価値は競技面だけではありません。他国とは比較にならないほど安心安全なスタジアムや、熱量のあるサポーターがいる点も大きなポイントです。サッカーは色々な人をつなげる力があると言いましたが、それはサポーターを始めとした周囲の人々が熱量を持っているからこそ実現するものです。こうしたものを含めて、僕はサッカーを『作品』と捉えています。アジア戦略が進むことで日本人だけでなく多くの国の人がJリーグを見てくれるようになると作品の価値はさらに上がっていきます。この部分をいかに発信し、理解してもらえるかが大切になりますし、そのためには、例えば経営層の方々と一緒に海外のスタジアムを訪れて日本とは一味違った熱狂度合いを体感してもらうのもいいかもしれません。そういった取り組みを重ねて事実やデータを収集していった上で、一緒に夢を見られるような仲間を作っていきたいです」
2026年のFIFAワールドカップでは、出場国数がこれまでの32カ国から48カ国に増加する関係で、ASEAN諸国初のワールドカップ出場が期待されている。
また2034年のFIFAワールドカップはASEANが共催して招致する動きも出てきている。
これからの5年、10年で、世界のサッカー市場におけるアジアの重要度が一層増していくことは明白だ。
その中で、Jリーグが如何にして存在感を高めていけるのか。
越えるべき壁は決して低くはないが、新世代のアジアサッカーと日本サッカーを形作っていくために、野々村チェアマンを旗手としてJリーグはブレイクスルーに挑戦していく。
(聞き手:上野直彦/文:久我智也)
寄稿:公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)
参考:図表「Jリーグと海外の繋がり」Jリーグプロフィール2022より