ホームJリーグ【特集】Jリーグアジア戦略10年~指導者編(前)
【特集】Jリーグアジア戦略10年~指導者編(前)

【特集】Jリーグアジア戦略10年~指導者編(前)

2022.08.26 Jリーグ
▲(画像)FAカップ制覇/©︎BURIRAM UINTED ~Jリーグアジア戦略のこれまでの10年を振り返り、未来を展望する特集企画~日本人指導者が研鑽を積み、アジアサッカーを底上げする~(前編) ※後編は9月1日(木)公開予定です

日本の組織的サッカーを伝授

海外に渡った日本人指導者がその国のトップリーグの監督として、これほどの成功を収めたのは初めてだろう。 元鹿島アントラーズ監督で、2021/22シーズン途中からタイの強豪、ブリーラム・ユナイテッドを率いる石井正忠監督がタイ1部リーグ、FAカップ、リーグカップを制して、三冠を成し遂げた。 2019年末からタイのサムットプラカーン・シティを指揮していた石井監督に、ブリーラムからオファーが届いたのは2021年末。 その時点でブリーラムはリーグ首位に立っていた。にもかかわらず、クラブが監督交代に踏み切り、石井監督を招聘したのは、サッカーのスタイルを日本流に改め、安定してトップに立ち続けられるチームを築くためだったという。 元札幌コーチの三浦雅之氏がアカデミーを指導し、成果を挙げていたこともあり、オーナーのネーウィン氏がトップチームにも日本人監督を据え、トップとアカデミーを一貫して日本スタイルで強化しようという構想を抱いた。 その決断に至らせた要素の一つには、柏レイソル、ガンバ大阪や日本代表の監督を歴任した重鎮、西野朗氏がタイ代表を指揮したこともあるかもしれない。 石井正忠監督 ▲石井正忠監督 ©︎J.LEAGUE

日本から学ぼうとする姿勢

 理由はともあれ、このときすでにネーウィン・オーナーが日本人指導者に大きな期待を寄せていたのは確かだろう。 その期待を背負った石井監督は、選手の目も日本を向いているのを感じたという。 「タイの、特に若い世代の選手には、高い規律に支えられた日本の組織的なサッカーを学ぼうとする姿勢がある。チャナティップ(コンサドーレ札幌、川崎フロンターレで活躍)の影響も大きいと思う。彼がタイ代表チームの中で、Jリーグの優れた点を伝えてくれている」 ヴィッセル神戸、横浜F・マリノスを経て、ブリーラムに加入したタイ代表のティーラトンも練習中に「そんなんじゃダメ」と言って、同僚に高いレベルを求めているという。 選手が日本サッカーを肌で感じたことが、日本サッカー導入の流れを生む要因の一つになり、その潮流を強めることになるのかもしれない。 石井監督はサムットプラカーンでもブリーラムでも、まずは組織的な守備力を高めることでチームの基盤を築き、選手にそれぞれの役割を貫徹させ、選手の組み合わせを重視する起用法で実績を挙げてきた。 「鹿島が示しているように、勝つために重要なのは高い守備力と、選手が自分の役割に徹すること。タイ人選手は我慢して耐えるのが苦手だが、そこが最も大事なのだと諭してきた。ブリーラムの三冠はチームの組織力、規律を高めた成果だと思う」 結果を残したことでオーナーの信頼を確たるものにした。 大物政治家であり、タイサッカー界への絶大な影響力を誇るネーウィン氏に日本人指導者の力と価値を認めさせた意義は深い。 現役時代の石井正忠監督 ▲現役時代の石井正忠監督 ©︎J.LEAGUE

選手との距離を縮め、丁寧な対話

少し遡ると、2019年に石井監督を呼んだサムットプラカーンのオーナーも日本型のチームをつくりたいと望んでいた。 前監督も広島などで育成に携わった村山哲也氏だった。 ブリーラムでの成功は、この小クラブでの経験を抜きには語れない。 初めて海外で指揮を執る石井監督は自分がチームに溶け込むために心を砕いた。 練習初日に全選手の顔写真を撮り、ニックネームを確認し、ひと晩で頭にたたき込んだ。 翌日、順に名前を呼んでいき、正しかったらハイタッチをした。 結局、全員正解。「あの試みで選手との心理的な距離がぐっと縮まった」。 タイで実践している選手へのアプローチの手法は、育成年代の選手と向き合うアカデミーの指導者のものに近いという。 いくら相手が日本に学ぼうとしていても、高いところからものを言ったのではうまく受け入れられない。 アカデミーでの指導経験がある石井監督は立ち位置を下げ、自ら選手に身を寄せ、語りかけてきた。 強豪ブリーラムの選手は技術レベルもプライドも高いが、選手に対するスタンスは変えず、サムットプラカーン監督時代と同じように接している。 「私の仕事は選手のレベルを上げて、タイを少しでもワールドカップ(W杯)に近づけること。そのためにも、まずは気持ちよくプレーさせることに力を注ぐ」。 タイサッカーの底上げに寄与するという気概があるから、選手たちと丁寧なコミュニケーションを図る。 ※後編に続く。後編は9月1日(木)公開予定です。 (取材・文 吉田誠一) 記事提供:公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)
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