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日本国弁護士・西川大貴さんと読み解く改正EPF法 ― 労働者と雇用主、双方の視点から ―

日本国弁護士・西川大貴さんと読み解く改正EPF法 ― 労働者と雇用主、双方の視点から ―

2025.10.23 MTown特集企画

2025年10月1日より、マレーシアの労働者積立基金(Employees Provident Fund、以下「EPF」)に関する改正法が施行され、外国人労働者のEPF加入が義務化される。

本特集では、マレーシアに拠点を置き、日系企業の進出・展開支援を行う TNY Consulting (Malaysia) Sdn. Bhd. の日本国弁護士・西川大貴氏が、労働者および雇用主の双方の立場から改正EPF法の主要ポイントを解説する。

1.改正EPF法の概要

マレーシアのEPFは、労働者の老後資金形成および社会保障を目的とする制度である。雇用主と労働者の双方が法定割合で拠出した資金を運用し、その運用益を加算したうえで、定年到達など一定の要件を満たした際に、積立金の全部または一部を受け取ることができる。

従来、EPF制度は主としてマレーシア国民を対象とし、外国人労働者(非マレーシア国籍者)の加入は任意であった。しかし、2025年3月に可決された Employees Provident Fund (Amendment) Act 2025 により、2025年10月1日以降、永住権を有していない外国人労働者にもEPF拠出が原則義務化されることとなった。

今回の改正の目的は、国籍を問わずマレーシア国内で働くすべての労働者に社会的保護へのアクセスを提供することにあるとみられる。改正後は、労働者・雇用主がそれぞれ月給の2%ずつを拠出する義務を負う。

2.労働者の視点から見るEPF法改正

(1)労働者が負担する拠出金は、雇用主が労働者の月額給与から控除し、EPF当局に納付する。そのため手取り給与は減少するが、拠出金には年次配当が付与されるため、利息を含めた貯蓄効果が期待できる。また、外国人労働者が帰任などによりマレーシアを離れる際には、解約手続きを行うことで拠出金および利息の全額受取が可能である。

なお、すでに任意加入しており法定拠出率(2%)を超える割合で拠出していた外国人労働者が、改正後も同水準の拠出を継続したい場合には、EPF公式サイトで入手できる所定のフォームを雇用主経由で提出する必要がある。この手続きを行わない場合、拠出率は自動的に2%に固定されるため注意が必要だ。

(2)EPFでは、以下のいずれかに該当する場合、積立金の全額返戻が認められる。

1. 労働者が死亡した場合
2. 身体的または精神的障害により就労不能となった場合
3. マレーシアからの出国を予定し、再入国の意思がない場合
4. 年齢55歳に到達した場合


上記3.のとおり、外国人が帰任等により離任する際は、就労許可証の有効期限満了の2か月前から解約申請が可能である。ただし、現時点では手続きは労働者本人が行う必要があるため、帰任スケジュールを踏まえた余裕ある対応が求められる。返戻金の振込先としては、日本口座を含む一定の外国口座の指定も可能だ。

3.雇用主の視点から見るEPF法改正

改正により、雇用主は外国人労働者に対してもEPFを拠出する義務を負うことから、コスト増が避けられない。そのため、一部では外国人離任時に、雇用主が拠出したEPF相当額を労働者に求めるケースも想定される。

しかしこの点については、EPF法上の規制に注意が必要である。たとえば、EPF法第47条は雇用主は、いかなる契約上の反対の定めがあっても、労働者から、使用者拠出分を、賃金または報酬からの控除その他の方法により徴収または回収してはならない旨定めており、違反した場合には罰則が科される可能性がある。

したがって、雇用主が拠出分相当額の支払を労働者に求めることが、この徴収・回収行為に該当しないかどうか、慎重な検討が求められる。

4.さいごに

EPF当局では現在、外国籍従業員の登録手続を効率化するため、自動登録制度の整備や登録状況の通知などを順次進めている。これらの情報は、EPF公式サイト(https://www.kwsp.gov.my/en/employer/responsibilities/non-malaysian-citizen-employees)にて随時更新されている。

改正内容の実務運用は今後も変化が見込まれるため、労働者・雇用主双方において最新情報を継続的に確認し、法令遵守のもとで適切に対応することが重要である。

【執筆協力者】

日本国弁護士 西川 大貴 氏


TNY Consulting (Malaysia) Sdn. Bhd. 所属
ジェトロ中小企業海外展開現地支援プラットフォーム・コーディネーター
JACTIM調査委員会委員

2019年に弁護士登録(大阪)。日本国内での訴訟・事業再生・M&A業務などを経て、2024年1月より現職。クアラルンプールを拠点に、会社設立支援、ライセンス取得、調査・意見書作成、M&A関連業務など幅広く対応。在マレーシア日系企業向けに、マレーシア法務に関する講演も多数実施。

連絡先:info@tnygroup.biz
HP:http://www.tny-malaysia.com/ 

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