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KL市街地に、わずか半年で生まれ変わったエリアがある。
どうやって街を再生したのか、活動発起メンバーに話を聞いた。
クアラルンプール、パサセニ駅周辺に広がる中華街の一角に、路地裏ながら常に人だかりが出来ている場所がある。そこには「鬼仔巷(Kwai Chai Hong)」と書かれた門があり、くぐって赤い橋を渡ると、壁に1960年代の中華街の情景が描かれた空間が広がっている。
描かれているのは、二胡を弾く老人や遊ぶ子どもたちなど当時の何気ない日常風景だ。
側にあるQRコードを読み取ると動画が再生され、絵に描かれている人物が語りかけてくるようなナレーションが流れる。訪れた人たちは、一気にタイムスリップをしたような感覚に陥る。
この場所は、かつては暗く荒れた路地裏だった。
辺りは問屋街で、夜になると人通りが少なく、薬物中毒者やホームレスなどの溜まり場になっていた。
治安も衛生状態も悪く、中華街とは名ばかりで、中華系の住民はどんどん離れていった。
「かつての賑わいを取り戻したい」。
そんな思いから、プロジェクトを主導するマネージングパートナーのZeen Chang氏が、友人4人と協力し、2019年に街の再開発に乗り出した。単に人が集まる場所に変えるだけではなく、中華街が栄えた1960年代の情景をアートにすることで、失われつつある中華系のアイデンティと文化を後世に残したいと考えた。
そのこだわりは、場所の名前に如実に現れている。
「鬼仔巷」。直訳すると“幽霊の小道”。賑わいを取り戻したいとは一見思えないネーミングだが、Zeen氏は「過去に目を背けず、向き合うことで初めて学びがある。歴史は恥ではない。むしろこの場所の過去を、特に若い世代に知ってほしい」と話す。
壁面アートは屋外にあることもあり、定期的な補修が欠かせない。
「かつては人間関係も親密だった。鬼仔巷に行けば二胡のおじさんに会える、というような安心感を感じてもらいたい」と、描かれているアートは基本的には変えないという。
休日はもちろん、平日も多くの人たちが訪れ、思い思いに写真や動画を撮影する。
再開発からわずか6か月で街は大きく変わり、最初は取り組みに消極的だった地元の人たちも、次第に応援してくれるようになったという。プロジェクト開始から4年経った今も、SNS上では#Kwai Chai Hong の画像が毎日すごい勢いで更新されていく。入場料が無料で、誰でも気軽に訪れることができるのも賑わいの大きな一因だ。
では、どのようにして運営の費用を捻出しているのか。
Zeen氏によると「資金はテナント料でまかなっている」そうだ。人が多く訪れる場所であれば、店舗は出店を希望する。鬼仔巷とその周辺の店舗の賃料は、この4年で3倍以上になっているという。
暗く廃墟のようだった場所は、わずかな期間で、地元の人たちや世界中からの観光客が集まる場所になった。
この取り組みは、日本の特に地方の、シャッター街や人口減少の街の活性化対策に生かせるのではないか。Zeen氏に尋ねたところ、街の再生プロジェクトに不可欠な要素は2つ:「若い世代をターゲットにすること」「外観ではなく、生活や文化などを感じ取れるものにすること」だと教えてくれた。
「人が感動するのは、人の心に触れた時。ぜひ1960年代のマレーシアの生活を感じに来て」と微笑む彼女の笑顔は、情熱に溢れていた。