ホームインタビュー日馬関係60年、未来を見据えたパートナーシップとは ~四方大使が語る外交・経済・文化の連携強化~
日馬関係60年、未来を見据えたパートナーシップとは ~四方大使が語る外交・経済・文化の連携強化~

日馬関係60年、未来を見据えたパートナーシップとは ~四方大使が語る外交・経済・文化の連携強化~

2025.06.05 特別インタビュー

日本とマレーシアが外交関係を樹立してから60年以上にわたる深い友好関係を築いてきた中、その協力関係は経済、文化、安全保障、教育を含む多岐にわたり、現在も進化を続けている。マレーシアの政府系通信社であるベルナマ(Bernama)が制作・配信するポッドキャスト番組「Diplomatic Dispatch」に、駐マレーシア日本国特命全権大使・四方敬之氏が出演し、両国の現在の関係性と今後の展望について幅広く語った。

四方大使は、日本とマレーシアの関係について「ビジネス、投資、貿易、文化、外交など、あらゆる分野で非常に活発な交流がある」と述べた。今年はマレーシアがASEAN議長国を務めていることもあり、1月には石破茂首相がクアラルンプールを訪問、アンワル・イブラヒム首相と会談を行った。また、最近では先月「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」を掲げる岸田文雄・前首相率いる国会議員団が来馬するなど、脱炭素社会を目指した協力関係が加速しているという。

2023年12月に日馬関係が「包括的戦略的パートナーシップ(CSP)」へと格上げされたことを受け、四方大使は「環境、エネルギー、国家安全保障など、あらゆる分野で関係が深化している。マレーシア海上法令執行庁への支援や、自衛隊とマレーシア軍との交流も進んでいる」と述べた。


「ルックイースト政策」から「互いを見つめ合う政策」へ

教育分野では、1980年代から続く「ルックイースト政策」のもと、これまでに約2万8,000人のマレーシア人学生や研修生が日本で学び、国内の要職に就いていることが大きな信頼の基盤になっている。現在もマレーシア工科大学(UTM)内のマレーシア日本国際工科院(MJIIT)では、日本型の理工系教育が実施されており、産学連携の中心的な拠点となっている。

さらに、筑波大学はマレーシアに日本初の海外キャンパスを開設。四方大使は「日本とマレーシアが『ルック・イースト政策』の枠を超え、『Look at Each Other Policy(互いを見つめ合う政策)』を進めていくべきだ」と語った。


投資・経済協力でも連携強化

経済面でも両国の連携は緊密だ。日本はマレーシアにとって長年にわたる主要投資国の一つであり、累計RM1,050億(約3.3兆円)以上の投資がなされ、34万人以上の雇用を創出している。

四方大使は、特にサラワク州でのグリーンエネルギー投資に注目が集まっており、水素、アンモニア、二酸化炭素の回収・利用・貯留(CCUS)といった分野において、日本企業が持つ技術力が活用されていると述べた。

また、マレーシア国内に2,000店舗以上あるとされる日本食レストランの増加にも触れ、マレーシア味の素が、マレーシア国内において全製品を100%ハラル対応とし、そのうち約40%を中東地域に輸出、さらに10%を日本国内に逆輸出していることを明らかにした。マレーシアが持つハラル認証制度の信頼性の高さが、食品関連企業の海外展開における重要な足がかりとなっていると述べた。

特に、マレーシア・イスラム開発局(JAKIM)よるハラル認証は、国際的にも高く評価されており、同国は食品業界にとって魅力的な投資先となっている。

一方、投資は食品産業にとどまらず、データセンター分野でも拡大傾向にある。サイバージャヤのみならずジョホール州でも複数の日本企業がデータセンター投資を進めており、マレーシアは伝統的な電子産業に加え、多様な分野での投資誘致に成功している。

日本とマレーシアの経済連携は、食品・IT・環境技術など幅広い分野において、引き続き深化が期待される。

ASEANにおけるマレーシアのリーダーシップ

◆ミャンマー情勢など喫緊の課題にASEANが対応を

先週開催されたASEAN首脳会議について四方大使は、ASEANの今後の議論において、深刻化するミャンマー情勢などの喫緊の課題に対応する必要があるとの考えを示し、議長国を務めるマレーシアのリーダーシップに強い期待を寄せた。

四方大使は、「ミャンマーでは地震の影響もあり、人道支援の実施が極めて困難な状況にある」と指摘した上で、「日本としてはすでに人道支援を行っているが、将来的には復興支援にも関与していきたい」と述べた。そして「マレーシアがASEANの議長国として、このような緊急課題に積極的に取り組んでくれることを期待している」と語った。

◆FOIPとASEAN連携で地域安定を主導へ―ウクライナ情勢やパレスチナ支援にも言及 

四方大使は、日本とマレーシアが共に支持する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想についても言及。ASEANが独自に掲げるAOIP(ASEAN Outlook on the Indo-Pacific)と連携し、地域の平和と安定を維持するための協力を強化していく方針を示した。四方大使は、日本が推進するFOIPには経済的側面もあり、アジア域内での「国境を越えた連結性」の強化が重要だと指摘。

また、国際秩序を巡る状況については、「南シナ海や東シナ海、そしてウクライナでの現状変更の試みは、国際社会全体にとっての重大な懸念事項」と述べた上で、「法の支配に基づく秩序を守ることが極めて重要であり、力による一方的な現状変更は決して容認されるべきではない」と強調した。

さらに、ロシアによるウクライナ侵攻について、「北朝鮮兵士がウクライナ戦線に加わっているとの報道もあり、欧州の安全保障環境とインド太平洋の安定は切り離せない」と述べ、グローバルな視点での安全保障協力の重要性を訴えた。

この発言は、ASEAN内外で高まる安全保障上の懸念に対して、日本が地域の安定維持において積極的な役割を果たす姿勢を改めて示すものとなった。日本とマレーシアの協力関係が、今後も地域秩序の維持に寄与することが期待されている。

また、パレスチナ支援においては、日本が主導する「パレスチナ開発のための東アジア協力促進会合(CEAPAD)」構想を通じ、東南アジアの経験をガザの復興に活かす取り組みを進めていることを紹介。「持続可能な開発に向けた教育・雇用の提供が鍵だ」と語った。

AI活用の交通ソリューションをASEAN全体のモデルに

四方大使は、都市の交通渋滞対策として、AI技術を活用した日本のスタートアップ企業による「デマンド型交通(DRT)」の導入可能性についても触れた。例えば、モントキアラとブキッ・ビンタン間においてミニバスの運行を最適化すれば、渋滞緩和につながると説明した。このような取り組みが成功すれば、ジャカルタ、バンコク、ホーチミン、インドの大都市など、他のアジア諸都市に応用可能なモデルになると指摘した。

大阪・関西万博と未来への展望

2025年は大阪・関西万博が開催され、2,800万人の来場を目指している。四方大使は「日本は技術革新を通じた課題解決を提示し、マレーシアも多様性と調和をテーマに積極参加している」と述べ、双方向の学びの場となることを期待した。
また、自身がラマダン期間中にバザールでマレーシア料理を楽しむ様子がSNSで話題となったエピソードにも触れ、「ナシレマやミーゴレンなど、マレー系、中華系、インド系、ニョニャ料理と、すべてを満喫している」と語り、文化外交の重要性を強調した。

最後にマレーシア国民へのメッセージ

四方大使は、「マレーシアが今後、高所得国家に進む中で、交通渋滞、エネルギー、教育など共通課題に日馬が連携して取り組むことで、ASEAN全体のモデルとなる可能性がある。日本は引き続き、マレーシアと緊密に連携し、その発展を支えていきたい」と締めくくった。

この記事は、マレーシアの政府系通信社であるベルナマ(Bernama)が制作・配信するポッドキャスト番組「Diplomatic Dispatch」におけるインタビュー内容をもとに構成しています。

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