ホームインタビュー「ASEAN事務総長との対話」を終えて 澤村剛朗JACTIM会頭と高野光一JETROクアラルンプール事務所長に聞く
「ASEAN事務総長との対話」を終えて 澤村剛朗JACTIM会頭と高野光一JETROクアラルンプール事務所長に聞く

「ASEAN事務総長との対話」を終えて 澤村剛朗JACTIM会頭と高野光一JETROクアラルンプール事務所長に聞く

2024.08.08 特別インタビュー

ASEAN日本人商工会議所連合会(FJCCIA)は7月17日、東南アジア諸国連合(ASEAN)事務局(本部・インドネシア・ジャカルタ)において、カオ・キムホンASEAN事務総長と対話を行いました。マレーシア日本人商工会議所ほか、ASEANの9会議所の代表者が集い、将来のASEANのサステナビリティや人材育成に対する日系企業の貢献を伝えるとともに、ASEANがさらに魅力あふれる事業展開先となるような制度・ルール面での改善などを提案しました。

「対話」の場にマレーシアの代表として実際に参加されたマレーシア日本人商工会議所(JACTIM)澤村剛朗会頭と、日本貿易振興機構(JETRO)の高野光一クアラルンプール事務所長に会合を終えての感想や課題をお話しいただきました。

FJCCIAの提案 -6つの柱-

・シームレスにつながった単一市場と生産拠点(柱1)
・グリーン経済とサステナビリティ(柱2)
・デジタル経済とイノベーション、新興技術(柱3)
・グローバル・コミュニティにおいて積極的な役割を果たすASEAN(柱4)
・強靭で豊富な人材を有するASEAN(柱5)
・インクルーシブで公正な開発(柱6)

澤村剛朗JACTIM会頭と高野光一JETROクアラルンプール事務所長インタビュー

Q:今回の「ASEAN事務総長との対話」という機会に参加されての感想を教えていただけますか?

澤村剛朗JACTIM会頭(以下、澤村):今回の参加は2回目ですが、ASEAN日本人商工会議所連合会(FJCCIA)の議長としては初めての参加でした。

昨年、日本ASEAN友好協力50周年を迎え、12月に東京で特別首脳会談が開催され、岸田総理とインドネシアのジョコ大統領が出席されました。この会談には、今回の対話にも出席されたASEAN事務局のカオ事務総長も参加されていました。その中で、岸田総理から「共創(コクリエーション)」というスローガンが掲げられ、気候変動などの課題解決に向けての取り組みが強調されました。カオ事務総長も今回の対話でこのスローガンに再三触れられ、非常に印象深かったです。また、日本企業とASEANとの歴史的なつながりや、日本に対する期待の高さを改めて感じました。

高野光一JETROクアラルンプール事務所長(以下、高野):私は初めての参加でしたが、以前ハノイに駐在していた際に、この事務総長との「対話」が始まり、とても感慨深い気持ちで参加しました。カオ事務総長は着任して以来、今回が2回目の参加です。関係者の話では、初回は着任間もない時期で事務方の発言が多かったようですが、今回はカオ総長自身が我々の提案に対して非常に積極的に発言されていました。日本側の要望にしっかりと向き合っていただいたことに非常に感謝しています。

Q:改めてASEAN事務総長とFJCCIAとの「対話」の意義や目的について教えていただけますか。

澤村:ASEAN域内の日系企業の要望を直接伝える場として、ASEAN事務総長と直接対話ができる機会は非常に重要です。日本以外の他の国々がすべてASEANとこうした対話の場を持つことができているわけではありません。ですから、日本が16回にも及ぶ「対話」を重ねてきたことは、ASEANにおける日本の地位とこれまで築いてきた関係性を示していると思います。また、今回の「対話」を通じて、カオ事務総長からいくつかの課題について「直接対応する」という回答を得られた項目もありました。

この対話の内容については、最終的にはラオスで開催される経済大臣会合や、あるいは特別首脳会談へ報告されます。したがって今回の対話はそのための重要なインプットの機会にとなったと考えています。また、日本企業がどれだけ努力しているか、ASEAN各国を応援しているかを示す場でもあります。このような交流や対話の機会をいただけることに、私たちも非常に感謝しています。

Q:過去に行われた「対話」を通して上がってきた成果や変化、日系企業にとって有益な対応が得られたなど具体的なものはありますか?

澤村:基本的にはASEAN内の自由貿易を促進することで、日系企業の横のつながりを強化し、付加価値を高めることができつつあると思います。具体的な成果もいくつか挙げられます。

高野:今回の「対話」を実施するに当たり、6つの柱に分けてASEANに対する要望や提案を整理しました。これまでの成果としては、非常にテクニカルで実務的なものが多いです。一つの例としては、自由貿易協定(FTA)の円滑な利用を進めるための手続き面の改善として電子化を求めていることが挙げられます。これはJACTIMが提案した案件でもあり、原産地証明のデジタル化が進み、PDFでの書類受け取りが可能になってきています。

次のステップとして、データ改ざん防止のためのファイルシステムの導入も議論されています。これは長年の働きかけの成果と言えます。また、地域的な包括的経済連携(RCEP)への積極的な加盟を働きかけてきて実現したこと、あるいは通関システムの運用改善もあります。国によっては現地語のみだった通関書類が、英語で統一的に受け入れられるようになりました。これらも過去の「対話」の成果と言えます。

これらの改善は一気に進むわけではありませんが、少しずつ着実に成果を挙げています。

Q:ASEAN内の日系企業として貢献できる案件や事例についてお聞かせください。具体的には6つの柱に沿ったものとなるのでしょうか?

澤村:基本的にはその6つの柱に沿ったものになると思いますが、特にマレーシアでは次の4つに重点を置いていると思います。1つ目はASEANにおけるサプライチェーンの強化、2つ目はグリーン経済、つまりカーボンニュートラルへの貢献、3つ目はデジタル経済イノベーションの発展、4つ目は人材育成です。この4つについては、カオ事務総長からも「対話」の中で「日本に対する期待が高い」との指摘がありました。

グリーン経済に関しては、エネルギー効率化、再生エネルギーの利用、炭素回収・貯留(CCS)の問題など、日本企業が多方面で役割を発揮できると思います。他の国にはないクロスオーバーの領域で貢献できる点が強みです。

人材育成については、日本の「モノづくりの強み」がASEAN全体で認められています。各国からの共通の悩みが人材育成であり、特に製造メーカーを中心に行われてきた日本の人材育成の仕組みは極めて良い例として参考にされており、結果的に貢献できると考えています。

Q:ASEANでは引き続き日本のプレゼンスや期待値が高いことがわかります。日系企業としてASEAN内でのプレゼンスをさらに強化するための課題は何でしょうか?

澤村:現在、逆風として感じているのは、円安の影響で昨年に比べて日本企業のASEAN全体への投資額が減少していることです。これはマレーシアも例外ではありません。しかし、JACTIMが今年初めに実施したアンケート結果によると、日本企業の投資意欲は依然として高いことがわかりました。今後、どのようにしてその投資意欲を具体的な行動に結びつけるかが課題です。幸い、最近は為替介入が実施されたとの見方もあり、円高が進んでいるので、その点も期待しています。

また、ASEANとの関係性の構築や相互理解の促進も必要です。今回の対話では、JETROをはじめとする政府機関と共に進めてきましたが、この取り組みを一層強化する必要があります。他国も非常に取り組みを強化しており、例えば、私たちが「対話」を行った同日にEUも同じような「対話」を行っていたとカオ事務総長がおっしゃっていました。米中対立や地政学的な問題を考えると、ASEANは非常に重要な地域であり、この地域でしっかりと経済共同体を作り、それを活用することは日本にとっても重要です。官民一体で進めていく必要があります。

また、コミュニケーションの取り方にも課題があります。日本の声が他国に比べて「おとなしめ」「控えめ」であることが多いので、官民一体でうまく伝えていく必要があります。これも一つの課題だと考えています。

Q:海外において、日本が官民一体になることが少ないという話をよく聞きますが、それを強化していく方針に合致していると捉えてよいですか?

澤村:はい、ASEANに関してはまさにその通りだと思います。ASEANは、日本や日本企業が存在感を示すための非常に重要な地域であり、その取り組みが実効的な成果につながる可能性が高いです。ニーズとウォンツが一致していると感じています。

高野:確かに、ここでしっかりと日本の立場を確保していくことが必要です。公的機関の立場からもその重要性を感じています。

Q:日本がASEANで存在感を高めるという側面も持っての「対話」だったと思いますが、昨年策定された日ASEAN経済共創ビジョンの取り組みは他国でも行われているのでしょうか?

澤村:EUが共同表明をしています。同じようなアプローチを取っている国としては、オーストラリアもあります。具体的な内容はわかりませんが、同じような枠組みを作っていると想像します。

官民一体でASEANに働きかける取り組みは他の国々でも行われています。私たちもそうした国々と競争している状況です。カオ事務総長によれば、日本が事務総長との「対話」を行っていることについて、韓国が「非常に良い取り組みであるので、我々もやらせてほしい」と言ってきているそうです。

Q:今回の「対話」では他国の日本人商工会議所の方々も参加されたわけですが、そういった会話の中でマレーシアの強みや弱み、長所や短所について何か感じたことがありますか?

澤村:昨年も感じたことですが、各国にいる日本人商工会議所と現地政府との対話がどの程度進んでいるかは、「対話」の中だけでは明確にはわかりませんが、やはりジェトロや大使館と一緒に、JACTIMとして定期的にマレーシア政府と対話を重ねていることは他国に比べてもアドバンテージがあると感じました。いくつかの共通する問題やマレーシア特有の問題についても、我々JACTIMと政府との対話を通じて課題が明確化され、解決に向けた議論が他国よりも進んでいるように感じます。

人材育成の問題も各国から共通して出ていました。マレーシアも人材育成の進め方に問題がありましたが、昨年12月に「技術教育及び訓練並びに職業教育及び訓練(TVET)」に関する官民連携評議会(GITC)が「TVET所掌省庁との協働についての説明会(FMM)」というイニシアチブに関するMOUを交わし、政府と企業の間に立つ評議会の役割が確立できました。このプラットフォームが整備されていること自体が進展していると思います。

ある国の方は「人材育成をしなければならない」という課題を挙げ、そこから現地政府との対話が始まっているような印象を受けましたが、マレーシアはそのプラットフォームがすでに確立されつつあり、他国と比べて進んでいる部分があると感じました。

Q:ASEAN全体として当面の課題は「人材育成」であると考えます。そのほか、ASEAN域内で共通している課題、日系企業として感じる課題について教えてください。

高野:貿易面では、ASEAN内のコネクティビティーを円滑にするために様々な改善を求めています。これはASEAN域内で共通するテーマの一つです。また、各国とも米中デカップリングの中で、投資をどう誘致するかについて意識を高めています。

他にも澤村会頭がおっしゃったように、脱炭素もASEANにとって共通の課題です。日本企業がこの分野でどう貢献するかが期待されています。企業もこの点に関心を持っており、日本の技術や取り組みが大いに役立つと考えています。

Q:今おっしゃったような制度を構築できるかが一つの課題ですね。では、他の国では官民で専任を置いているのでしょうか?

澤村:他の国々は確かに官民一体となり、専任のスタッフを配置している場合が多いです。日本もASEANに対して重要な役割を果たすために、そうした専任体制を官民が協業して構築することが求められると思います。

Q:皆さんの任期が2年、3年と限られていることもあり、今回の対話に出席された方々の多くが初めての参加者が多かったのではないでしょうか?

澤村:日本の組織の事情を考えると、会頭レベルの人が複数回「対話」の機会に出るのは稀です。しかし、商工会議所の会頭が出席するという仕組みは変えない方が良いと思います。事務局がしっかりしていれば、各メンバーが会頭を支える形で継続的に活動できると思います。

つまり、重要なのはファンダメンタルをしっかり構築することです。これにより、会頭が変わっても組織全体としての活動が安定し、引き継ぎもうまくいくでしょう。専任スタッフの配置や制度の整備を通じて、より強固な体制を築くことが重要だと考えています。

Q:今回のイベントを通じて、次回以降の課題点などがあれば教えてくださいませんか?

澤村:議長国でありながらマレーシアで開催できなかったことは残念でした。ASEAN事務局がインドネシアにあり、事務総長は非常に多忙のため、各国を訪問するよりも一つの場所で効率的にまとめて行う方が良いというのは理解できます。しかし、我々としてはカオ事務総長と直接お会いすることが最優先でした。場所にはこだわらず、実際に現地を見て、耳で聞いて感じることも重要です。マレーシアを見ていただければ良かったと思います。

マレーシアが来年、ASEANの議長国となるこのタイミングでJACTIMが議長を担ったことは非常に良かったのではないかと思います。クアラルンプール市内を見回すと来年が議長国であることを示す「ASEAN 2025」と書かれた看板が見えます。アンワル首相も議長国になることについて大変に力を入れているようです。今回の対話は、国レベルでの主催と民間の差はあるかもしれませんが、来年に繋ぐ良い機会になったのではないかと感じています。

カオ事務総長のプロフィール

カオ・キム・ホン(Kao Kim Hourn)氏(写真右)

カンボジア東部のコンポンチャム州生まれの58歳。
ポル・ポト政権崩壊後、タイ国境近くの難民キャンプで数年を過ごし、やがて米国に移住。高校から博士号取得までの間、米国で教育を受ける。

カンボジアの国際関係や外交政策に関与する様々な役職を歴任。外務国際協力省で長年勤務し、ASEANに関する業務を担当。カンボジア首相補佐特別大臣を経てASEAN事務総長には2023年1月1日付で就任している。

澤村剛朗
JACTIM会頭
プロフィール

 

1966年生まれ、大阪府出身。
1999年、住友海上(現三井住友海上)に入社。
その後、企業部門・国際業務部門や米国ロスアンゼルス・シンガポールでの駐在等、国内外の事業に従事。
2017年、三井住友海上火災保険マレーシア副CEO(部長)。2022年、同理事。
2023年、JACTIM会頭就任。現在に至る。

高野光一 JETROクアラルンプール事務所長 プロフィール

 

1967年生まれ、神奈川県出身。
1991年、日本貿易振興会に入会。その後、マレーシア(97年)とベトナム・ハノイ(06年)に駐在。今回は2回目のマレーシア駐在として2023年10月に着任。JACTIM参与、調査委員長に就任、現在に至る。 

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