ホームインタビュー【旬な話題を訊くVol.2】過去最大の2021年予算案、PwCはこう見る with PwC
【旬な話題を訊くVol.2】過去最大の2021年予算案、PwCはこう見る with PwC

【旬な話題を訊くVol.2】過去最大の2021年予算案、PwCはこう見る with PwC

2020.12.03 旬な話題を訊く
政府が11月6日に発表した2021年予算案は過去最大の予算額3225億リンギを計上しました。 この予算案内容について専門家はどうみているのでしょうか。プロフェッショナル・サービス・ファーム、PwCのパートナー、杉山雄一さんにお話をききました。
今回お話を伺ったのは……PricewaterhouseCoopers パートナー 杉山 雄一 氏 1997年青山監査法人に入所し、上場企業の監査やデューデリジェンス業務に関わる。 2002年よりPwCマレーシア事務所に勤務。J-SoxやIFRS関連業務にも豊かな経験を有する。 2016年7月より同事務所日系企業コンサルティンググループ(JBCG)の統括に就任。 会計監査人としてマレーシアでライセンスを持つ唯一の日本人会計士として活躍。
Mtown(以下、M):今回の予算案の特徴をどうみておられますでしょうか。 杉山氏:新型コロナ対策に配慮したものと言っていいでしょう。新型コロナファンドとして170億リンギのほか、経済的波及効果の大きいプロジェクトに対するグロス開発支出として690億リンギも計上しています。 戦略として14項目を挙げ、それを3本柱(①国民の福祉、②事業の継続と成長、③経済的基盤の強化)に分けています。これまでは②と③を中心に予算案が組まれてきましたが、今回は①をメインにしていることも特徴です。3本柱であるものの、②と③は①に比べて副次的となっています。①の中の戦略では「パンデミックからの克服」、「中低所得層の福祉の確保」や「雇用の創出・維持」を真っ先に掲げているのも新型コロナ対策向けと言っていいでしょう。 M:今回の予算案で日系企業が享受できる内容はどういったものでしょうか。 杉山氏:税制優遇措置で日系企業が享受できる内容として3つあります。 まずは、「グローバル・トレーディング・センター」の導入。法人税率10%が5年間適用され、その後も場合によっては5年間の延長が可能となります。貿易取引が対象でこれまでのプリンシパル・ハブから分離された形となり、非製造業に対する措置として注目されるでしょう。ただ、要件面などで不明点も多く、今後の発表を待つことになります。 次にサービス業のマレーシアへの事業移転に対する優遇措置です。サービス業のうち波及効果の大きい業種(主にインダストリー4・0やデジタル化技術を取り入れているサービス分野の産業)に法人税の優遇措置が適用され、新会社の設立で10年間の法人税率が0~10%、既存の会社で新事業を起こす場合は10年間の法人税率が10%と提案されています。内国歳入庁(IRB)の話では、投資額の基準はないようです。先に政府が発表した経済再生計画(Penjana)では製造業のみの優遇措置が発表されましたが、こちらも非製造業に拡大したことになります。 最後の点として高付加価値のテクノロジー分野に対する優遇措置です。特別優遇措置として10億リンギが配分されましたが、ペナン州バトゥ・カワンやクダ州クリムの工業団地の電子産業などが財務相演説の中で例として触れられたのみで、不明点が多いですが、政府が注力したい製造業の方向性が垣間見えると思います。 中小企業へのデジタル化やサービス業での自動化などに対する補助金も発表されましたが、残念ながら日系企業にはあまり享受できる内容ではありませんでした。 M:所得税への控除についてはどのようなものがあるでしょうか。 杉山氏:予算案のなかでは個人所得税への控除も拡大される内容が発表されました。医療費を中心に保険料や教育基金への積立といった内容に現行よりも控除額が拡大または延長という提案がなされています。年収5万1~7万リンギの課税所得に対しては現行の14%から13%に引き下げられます。 低中所得者層を助ける内容になっていますが、一方で非居住者の最高所得税率は昨年から30%(年収200万リンギ以上)に引き上げられ、このまま維持されます。長期的にはさらに上がる可能性があると考えています。 M:歳入への懸念がありますがいかがでしょうか。 杉山氏:政府は国家予算案での歳入を2370億リンギと見積もりますが、対外的なコミットメントもあって数字を合わせた結果こうなったのでしょう。 ただ、歳入見通し内容で直接税の割合が1319億リンギと全体の約41%を占めており、頼りすぎている感は否めません。間接税の歳入見通しはわずか126億リンギで、先進国と比較しても間接税歳入が低いことは気になります。 歳入見通しでは売上税(SST)の歳入は279億リンギです。2018年の政権交代で当時の政権政党の公約で物品・サービス税(GST)を廃止して導入された税金ですが、GSTだと(同年比較で)税収は約16億リンギも多いのです。財政赤字を今後も続ける訳にはいかないので、将来的にGSTの復活はあるでしょうが、政治的な判断もあるため、近々に再導入されることはないでしょう。 M:来年の経済成長についてはいかがでしょうか。 杉山氏:財務相の予算案発表では来年のマレーシアの経済成長について、国民総生産(GDP)の伸び率を6・5~7・5%増としていますが、この数字に達するのは難しいと思います。 これもコロナ対策の一環ですが、今年8月に公的債務上限をGDPの55%から60%に引き上げる法案を可決しました。これは2009年以来の改正です。 財政赤字を抱える政府としてはこの制限を再度上げることはそう容易でなく、逆に公的債務を来年のGDPの60%以内に抑えるには、6・5~7・5%の成長率が少なくとも必要です。逆算して算定した結果、やや高めの数値を使っているのではないかと推測します。他の東南アジアより高い成長率が具体的に説明できるような状況ではなく、肌感覚からしても発表数値よりは5・5~6%とやや低めになるのではないかと思います。
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