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2022年2月からクダ州社会福祉局に赴任し、障がい者の就労支援業務、中でもジョブコーチ(職場適応援助者)という取り組みの推進を担当しています。日本では20年以上前に導入された制度で、仕事を探すお手伝いだけではなく、就職後も職場に定着できるよう一緒に仕事を覚えたり、人間関係のアドバイスをしたりと、本人や家族、雇用主などを専門的にサポートするものです。私はソーシャルワーカーで心理検査もリハビリもできませんが、人をつなぐということを大切にしてきました。つなぐ人がいないと、つながらないことがたくさんあります。これまで出会った人たちや経験を、新たに出会った人たちにつなげていくことに、とてもやりがいを感じています。
日本の場合は障がい者雇用率が定められていて(一定規模以上の民間企業の最低障がい者雇用率は2024年4月に2.3%から2.5%に引き上げられる)雇用が義務付けられてます。しかしマレーシアでは、それがない。ですので、会社として障がい者を雇うモチベーションがあまり無く、メリットが少ないのが現状です。仕事内容にも特別な配慮はなく、最低賃金を下回る金額が提示されることもあります。全体として法や制度の整備がまだまだで、屋台などでのアルバイトのような就労が多いのが現状です。
クダ州にあるいくつかの日系企業に障がい者雇用枠を作ってもらい、雇用を約束していただきました。日本企業は、障がい者就労のノウハウをたくさん持っています。もちろん、こちらにあるのはマレーシア支社で本社機能とは別かもしれません。しかし本社に問い合わせれば、日本での経験をマレーシアでも真似して生かせるのではないかと考えています。ビジネス+CSR(企業の社会的責任)というような感じで、日本の誇れる良さの1つとして日系企業にぜひ障がい者雇用のあり方を示していってもらいたいですし、そうなるよう日々、企業との協働を提案しています。
また、そのほかにも日本とマレーシアの就労支援に関わる架け橋になれるよう取り組んでいて、先日もマレーシアの障がい福祉関係者5名と大阪・横浜・東京を訪問し、支援施設、支援学校、そして横浜国立大学の障がい学生支援室や、関西医科大のVRを活用した治療の研究などを視察しました。日本で見てきたことを障がい者の視点で伝えてもらいたいと思い、障がいがあるスタッフも一緒に訪日しました。
「国によるイニシアチブの重要性」についての声が大きかったです。マレーシアは関連の法律はあるものの障がい福祉への取り組みは各地域、各学校など組織によって差異が生じているのが現状です。例えば、制度上は全児童・生徒が学校へ通学できることになっていますが、実際には障がいへの対応が難しいからと受け入れを断られるケースもあり、学校に通うことができない子どもたちがたくさんいます。一方、日本では、障がい児童数に対して必要十分な教師の配置人数を国が定めていて、専門的に学んだ教師が手厚くサポートします。このような違いから、国がポリシーを明確に打ち出す重要性を感じたようです。
また「日本人だからできる」と言われることもあります。私はその言葉を、とても残念に感じています。マレーシアは経済発展をし、優秀な人材そして何より思いやりがある方が多い。だから「マレーシアでも絶対できる」といつも言っています。日本というイメージだけで語られないためにも、日本人と会ってほしいですし、日本の取り組みを実際に見てもらいたいと思っています。
イスラム教の教えもあってか、我が子に障がいがあるのは、乗り越えられる力がある家庭と認められたからだと考えるなど、障がいをポジティブな側面で捉えることが多い印象です。文化の違いはありますが、日本でもネガティブなイメージではなく、もっとポジティブな側面を前に出していけたらと思います。
また社会として、マレーシアは楽観的なところがありますよね。マレーシアで一般的に行われているようなインフォーマルな働き方、お店の手伝いをするとか少しお小遣いが稼げるような仕事が日本でも増えれば、挑戦することへのハードルが下がり、障がいや生きづらさを感じてる人たちがより働きやすくなるのではないかと。マレーシアの良い意味での緩さを日本が取り入れ、例えば5分刻みで物事が動くのではなく、せめて30分刻みくらいの感覚で予定が組めるような余裕のある社会になるといいなと思っています。
JICA海外協力隊 田中健志さん
大阪府岸和田市出身。大学で社会福祉を専攻。就労支援分野を中心に障がい当事者、家族、企業の支援を専門にしている。これまでに就労支援事業所勤務のほか、国立研究開発法人理化学研究所で人事担当官として障がい者雇用推進にも従事。
JICA海外協力隊とは?
日本政府のODA(政府開発援助)予算により、独立行政法人国際協力機構(JICA)が実施する事業。開発途上国からの要請に基づき、それに見合った技術・知識・経験・熱意のある人を募集し、選考、訓練を経て派遣している。これまでに93カ国でのべ5万5千人を超える隊員が活動。
JICA海外協力隊Webページ:https://www.jica.go.jp/volunteer/