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国営石油大手ペトロナスに何が起きているのか──経済の行方を握る会社の試練

国営石油大手ペトロナスに何が起きているのか──経済の行方を握る会社の試練

2025.10.08 経済・現地企業

 マレーシアを代表する国営石油企業 ペトロナス(Petronas) は、長年国の石油・ガス資源を統括してきた地位が今、サラワク州との対立を通じて根幹から揺さぶられようとしている。
世界的な原油価格の低迷に加え、地質的に採算性の低い油田を開発せざるを得ない状況も重なり、利益圧迫に直面していたペトロナス。だが、今もっとも深刻な挑戦は、サラワク州が同社の資源管理権を州所有企業「Petroleum Sarawak Berhad(Petros)」に引き渡せと要求している点だ。

この要求が通れば、1974年制定の連邦法「Petroleum Development Act(PDA)」に基づくペトロナスの全国石油資源保有・管理の独占体制が事実上揺らぎ、国家財政に深刻な影響を及ぼす可能性がある。PDA はペトロナスを「首相の統制下に置く」特別法制として位置づけており、政府はこれを財政上の重要資産として扱ってきた。 

サラワク州側は、自州で埋蔵される石油ガス資源について「もはや中央政府/ペトロナスにただ傍観させられる存在ではない」と主張。1960年代~70年代の国内統合の枠組み(MA63 協定)に由来する資源主権の歴史的文脈も引き合いに出し、「州としての参加権・利益配分を正当化すべきだ」と圧力を強める。 

政治的には、この紛争はアンワル政権の多党連立体制を揺るがす火種にもなり得る。サラワク州連合政党(GPS)は国政の議席構成において重要な位置を占めており、要求が通らなければ連立からの離脱をちらつかせることもできるという見方もある。こうした背景が、中央‐州間の権限・自治をめぐる緊張を高めている。 

このような構図を受け、ペトロナスとサラワク州政府は今年5月、資源開発の共同進出を柱とする合意を発表したものの、内部筋や業界関係者によれば、実務面では依然として平行線が続いているとの証言がある。社内では、サラワク州政府側が増えた規制権限を自社運営に活用しようとする動きに対し、ペトロナスに新たな「介入要因」を導入する懸念も生じている。 

その上に、ペトロナスは世界展開も抱えるが、海外での参画・資産売却戦略も難航してきた。たとえば、アゼルバイジャンのガス事業「Shah Deniz」への関与を巡る訴訟問題や、南スーダンでの資産国有化問題などが挙げられる。これら海外リスクが国内のプレッシャーと重なり、全体の企業価値にも影を落とし始めている。 

ペトロナスが失われるわけではないが、今後の対応が国の経済・財政・連邦制度のあり方に深く影響を及ぼす転換点になりつつある。「ペトロナス2.0」と名付けられた変革モデルの模索が既に始まっており、資源収益の分配構造・州の関与度・中央‐州関係の再定義をめぐる交渉が、これからのマレーシア政治経済を占う鍵になっている。 

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