日本で学んだ経験を持つASEANの人材が、今度はビジネスの力で日本とASEANをつなぐ――。2026年9月2日、クアラルンプールのZezz Residenceで「ASCOJA Business Advisory Board(ABAB)」の発足式が開催された。
会場には、四方敬之駐マレーシア日本国大使をはじめ、ASEAN各国の元日本留学生組織の代表者、日本・マレーシアの企業関係者ら約160人が集結。発足式に先立ってビジネスマッチングセッションも行われ、参加者は名刺を交換しながら、新たな連携の可能性を探った。
約50年の「絆」をビジネスへ
ABABの母体となるASCOJA(ASEAN Council of Japan Alumni)は、ASEAN10か国の元日本留学生会を結ぶ組織だ。1977年の設立以来、元留学生同士の交流を深め、日本とASEANの友好関係を支える「架け橋」として活動してきた。
今回誕生したABABは、その約50年にわたる人的ネットワークを、企業交流やビジネスマッチングにも生かすための新たなプラットフォームだ。文化・教育交流を中心としてきたつながりを、具体的な事業や投資、共同プロジェクトへ発展させることを目指す。
構想を提案し、発足を主導したのが、JAGAM(Japan Graduates’ Association of Malaysia/マレーシア元日本留学生協会)のゲイリー・タン会長だ。
「目指しているのは、日本とASEANのイコールパートナーシップです。日本語を話し、日本文化や日本人の考え方を理解している私たちは、日本企業にとって自然なパートナーになれると思います」
ASCOJAの会員には、各国で企業を経営する人や、専門分野で活躍する人材も多い。日本企業がASEANへ進出する際、言葉や商習慣の違いに加え、「誰を信頼し、誰と組めばよいのか」が大きな壁になる。日本で暮らし、学んだ経験を持つ現地の人材が間に入ることで、その不安を和らげられるという。
日本企業の「窓口」と「受け皿」に

ゲイリー会長は、日本企業がABABとつながるメリットとして、「現地市場へのアクセス」と「人材」の二つを挙げる。
人口約7億人を抱え、成長を続けるASEANは、日本企業にとって重要性を増す市場だ。一方で、優れた技術や商品を持ちながら、海外展開の方法や信頼できる現地パートナーが見つからず、進出に踏み切れない日本の中小企業も少なくない。
「日本には、まだASEANで知られていない良い技術や商品、地域の食品がたくさんあります。JAGAMが窓口、受け皿となり、各国のネットワークにつなげていきたい」
AI、IT、先端技術、医薬品、食品、フードセキュリティ、アニメ、漫画など、幅広い分野での連携に期待を寄せる。
その根底にあるのは、日本への深い感謝だ。ゲイリー会長自身も日本で教育を受け、奨学金や授業料免除による支援を受けた。「日本へ行っていなければ、現在の自分の成功はなかった。日本から受けた恩を、両地域の関係発展という形で返したい」と力を込めた。
安心できるネットワークが強みに

JAGAM中央支部のジェイク ソウ副会長は、ABABの価値について「元留学生のつながりを生かし、信頼できる環境の中でビジネスチャンスをつくれること」と説明する。
「外国でビジネスを始めようとしても、つながりがなければ誰を信用すればよいのか分かりません。元日本留学生は、知識だけでなく、日本人が大切にする心構えや規律、信頼関係も理解しています。その安心感が大きなメリットです」
また、ASEAN各国の市場や人脈を結ぶことで、一国だけでは見つけられなかった商機も見えてくる。グリーンエネルギー、天然資源、レアアースなど、ASEANの強みを生かした分野にも大きな可能性があるという。
一方、日本企業には変化の速さに対応する決断力も求めた。「ビジネスチャンスは、すぐにつかまなければ逃げてしまいます。新しい考えを受け入れるオープンな姿勢と、その場で判断できる人に参加してほしい」と呼びかけた。
「共創」で日ASEAN関係の次の段階へ

発足式で四方大使は、今回の船出をASCOJAの次なる段階に向けた「歴史的な日」と評価した。
高齢化や企業の国際競争力など、多くの課題を抱える日本にとって、今後はASEANからの協力が一層重要になる。その鍵として挙げたのが、双方が知恵や強みを持ち寄る「共創」だ。ABABから日本企業とASEAN企業による具体的な共同プロジェクトが生まれることに期待を示し、ASEAN各国の日本大使館も活動を支援していく考えを伝えた。
ABABは今後、マレーシアでの取り組みをモデルとして、ASEAN各国へ活動を広げていく方針だ。ゲーリー会長は「一つの国から次の国へバトンを渡し、この活動を長く続けていきたい」と展望を語る。
日本をよく知るASEANの人材と、ASEANに新たな可能性を求める日本企業。その双方を結ぶABABが、どのような商機と「共創」を生み出していくのか。マレーシアから始まった新たな挑戦に注目が集まる。







