「水はどこから来るのか」
地下水・河川水の“履歴”から考える水資源管理
地下水や河川水がどこから来て、どのような時間をかけて私たちの生活に届くのか。水の“履歴”を読み解くことで、都市化や気候変動の時代に必要な水資源管理の考え方を学ぶ講演会となった。
6月26日、マレーシア日本商工会議所(JACTIM)において、在マレーシア日本国大使館と筑波大学マレーシア校の共催による第2回特別講演会が開催された。
今回の講師は、筑波大学マレーシア校学群長で、水文学・水資源学を専門とする辻村真貴教授。「水はどこから来るのか」をテーマに、地下水や河川水がどこで生まれ、どのような経路をたどり、どれほどの時間をかけて現在の場所に届くのかという“水の履歴”を読み解きながら、持続可能な水資源管理について講演した。
冒頭では、在マレーシア日本国大使館の四方敬之大使が挨拶。筑波大学マレーシア校が、日本の大学として初めて海外に設置された分校であることに触れ、日本とマレーシアの高等教育・研究協力を象徴する存在として、今後さらに大学・研究機関・企業・行政をつなぐ交流拠点となることへの期待を示した。
水の流れを知ることが、水問題解決の第一歩
辻村教授は、私たちが日常的に使っている水には、「起源」「経路」「年代」という履歴があると説明した。水問題の原因は、上流や過去にあることが多く、その影響は下流や将来世代へ広がっていく。そのため、水がどこから来て、どのように流れ、どれほどの時間をかけて届いたのかを理解することが重要だという。
講演では、水の履歴を調べる方法として、酸素や水素の同位体、トリチウム、フロンガスなどを使った「トレーサー分析」も紹介された。これにより、水の由来や移動経路、年代を科学的に推定できるという。
また、サントリー「白州」の原水調査に関わったエピソードも披露。地下水が長い年月をかけて地中を流れ、その水がウイスキーづくりに使われることから、熟成年数だけでなく“水の歴史”にも目を向ける視点を紹介し、会場を和ませた。

マレーシアの水資源管理にも重要な視点
マレーシアで進められているクラン川流域の研究では、上流域で地下へ浸透した水が深い地下を移動し、下流域で再び河川へ流れ出ていることが明らかになったという。
辻村教授は、河川水と地下水は別々のものではなく、一つの水循環の中で密接につながっていると説明。マレーシアでは河川水やダム水への依存が大きい一方、今後の需要増加に伴い、地下水の活用も注目されている。こうした水のつながりを理解することが、今後の水資源管理に欠かせないと語った。
海外事例としては、チュニジアでのダム研究も紹介された。日本では問題視されるダムからの漏水が、チュニジアでは地下水を涵養し、海水の内陸への侵入を防ぐ役割を果たしているという。辻村教授は、水資源管理は国や地域の自然環境、気候、社会背景によって異なるため、その土地に合った対策を考える必要があると指摘した。
洪水対策や水質管理にも応用
質疑応答では、クラン川流域の洪水対策、水質基準、日本とマレーシアの水質の違いなど、幅広い質問が寄せられた。
辻村教授は、都市化によって舗装面が増えると、雨水が地面に浸透しにくくなり、短時間で河川に流れ込むことで急激な増水や洪水につながりやすくなると説明。水循環を理解したうえで遊水地などを適切に配置することが、洪水被害の軽減につながるとの考えを示した。
また、水質の違いについては、地質や土地利用、気候、浄水・下水システムなど複数の要因が関係していると述べ、自然環境だけでなく都市インフラの整備状況も重要だと説明した。
科学と地域の連携で、水の未来を守る
講演の最後には、日本の水循環基本計画や、マレーシアの国家水資源政策についても紹介された。日本とマレーシアは、代替水源の活用、防災、関係者間の連携など、共通する課題を抱えているという。
辻村教授は、持続可能な水資源管理には、科学的データに基づく理解に加え、地域住民、行政、研究者、企業などが平時から連携し、協力体制を築くことが重要だと強調した。
水資源に恵まれたマレーシアでも、都市化、気候変動、洪水、水質管理など、多くの課題がある。今回の講演は、普段何気なく使っている水の背景にある“履歴”を知り、これからの水資源管理を考える貴重な機会となった。
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